【Glory】第7話:8月に事件が起こりました

それは、突然訪れました。

高校卒業後の生活に
夢を膨らませていた時に

父の事業の倒産と両親が夜逃げをする
という話しが出ました。

初めは、何を言っているのか
よくわかりませんでした。

両親から呼ばれて、僕は選択を迫られました。

  • 一緒に逃げるか
  • 隣の幼馴染の家に居候をするか

でも、その時、僕は不思議と冷静でした。

特にその時は取り乱したりすることはなく、
頭は冷静でした。

「一緒に逃げて中卒で卒業をすると
後々、仕事に就くのが大変になるかもしれない」

「それだったら、高校だけでも卒業しておくのが
今、1番の得策であろう。大丈夫さ。コウダイよ。
隣に家に預かってもらえるし、なんとかなるでしょ。」

そのように考えました。

「俺は残るよ」

と一言伝えて、家の夜逃げ作業にかかりました。
あまり時間がなかった事だけは覚えています。

その夜に隣の幼馴染の家に置いてもらえるように
話しをしにいった時、不安はありましたが
気心もしれていたので、多少の安堵感はありました。

「人の存在って有り難いな〜」と思いました。

「親戚とか誰も預かりたくないって言われたのに
幼馴染とはいえ、他人の子供を預かってくれるんだもんな〜」

そんな事を思いながら話しを
黙って聞いていた時に

その幼馴染のおじさんは、
嬉しくなる優しい言葉をかけてくれました。

「コウダイは、私に任せてください。」

人の優しさに触れた瞬間でした。
僕は嬉しさを感じずにはいられませんでした。

そして、その後に深く傷つけられるとも知らずに…

幼馴染の家にお願いをした次の日には、
学校に指定校推薦を辞退する事を
伝えにいきました。

「奨学金という手段もあるが、どうする?」

と聞かれましたが、奨学金は借金で、
いずれ返さなければいけないと知ってから、
すぐにやめました。

借金までして大学に行こうとは
思えなかったからです。

ただ、一つだけ心配だったのは、
半年分の学費の件でした。

当然ですが、学費が払えなければ
高校を卒業出来ませんので、
一緒に逃げるしか道がなくなるからです。

学費の件を校長先生に話すと、
これまでの学校態度を認められて
卒業までの学費は免除してもらえました。

この時ばかりは、今まで頑張ってよかったと思いました。

学費の件や大学の事も、
とりあえず落ち着いたので

相談した翌日のお昼頃。

自宅に何でも屋を招き、家の家財道具や洋服、
家電製品などを全て買い取ってもらい
家を全てカラッポにしました。

*母は、「なんでこんなに買い取り額が安いの?」
とぼやいていました。笑

カラッポの家を眺めていると
徐々に実感が沸いてきました。

そう、多分、事が起こった時は、冷静ではなくて、
現実を受け入れるまでに時間がかかっていただけでした。

何もかもなくなった部屋や家の中を眺めるのは、
なんとも言えない気持ちでした。

家で家族と過ごした最後の夜は正直覚えていません。

明朝には、両親は車で兄が借りているアパートに
向かうというのに、、、

朝が来て、両親とお別れの時が訪れます。

父と母と抱き合った後、両親は車に乗り込み
東京へと向かって走り出しました。

両親を乗せた走る車の後ろ姿に
なぜか、幼稚園の先生を追いかけた時の事を
思い出しました。

母は、心配そうにずっと私に手を振ってくれていました。

不思議と涙は出ずに、
僕は、これからの事を考えました。

いつも帰る家の扉ではなく、
隣にある家に入っていくのは、
幼い時に、ただ遊びに行く感覚とは
違うように感じました。

「あ〜、これから半年間は、ここでお世話になるのか〜
なんか不思議な気分だな〜。どうなんのかな〜」

と不安がよぎりましたが、
途中で考えるのを止めました。

「なるようにしかならないし、置いてもらえるし大丈夫さ。」
それよりも、これからお世話になる家だから、
キチンとしなきゃな〜」

と思いながら、隣の幼馴染の家のドアを開けました。

その瞬間、私にとっての「当たり前の日常」が
壊れた瞬間であり、人間不信に陥る第一歩目を
踏み出した瞬間でした。

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